より良い「はたらく」の在り方を。 社会全体を巻き込んで挑む、新たな社会実験とは。

より良い「はたらく」の在り方を。 社会全体を巻き込んで挑む、新たな社会実験とは。

2021.07.02 PROJECT

すべてのはたらく個人にキャリアオーナーシップを身につけてほしい。そんな想いで始動したプロジェクトが「キャリアオーナーシップ リビングラボ」。自分らしい「はたらく」を見つけるための環境や体験を提供すべく、共同研究を行う本プロジェクトの発足経緯や目的、そして将来の展望についてプロジェクトリーダーである伊藤と西村氏に話を聞いた。


伊藤 剛 (いとう ごう)

2018年 中途入社
パーソルキャリア株式会社  ミッション推進本部  マネジャー
PRプランナー・プロデューサーとして経験を積んだ後、パーソルキャリアに入社。ミッションを社内外に浸透するべく、「キャリアオーナーシップ リビングラボ」を立ち上げた。

西村 勇也  (にしむら ゆうや)

特定非営利活動法人ミラツク 代表理事
人材系ベンチャー企業などを経て、2011年にNPO法人ミラツクを設立。未来社会のデザインをテーマとしたアプローチで大手企業の新規事業開発支援に取り組んでいる。

私たちのミッションは、自分たちだけでは推進できない

はたらく個人がキャリアにオーナーシップを持つための機会や知見を提供する「キャリアオーナーシップ リビングラボ」。果たして、このプロジェクトはどのような経緯で発足したのか。そして、パーソルキャリアとミラツクという2社はどのようにして出会い、手を組むことになったのか。

西村 このプロジェクトは最初、パーソルキャリアさんの社内で生まれたもの。そこに私が途中から参加させてもらいました。

伊藤 当初、新たにミッションが策定されたことがきっかけでした。2019年にパーソルキャリアは新しく『人々に「はたらく」を自分のものにする力を』というミッションを決めました。目指すのは、はたらく一人ひとりが自らの機会と可能性を正しく知り、選択し、行動できるように支援すること。その目指す先にあるのは、一人ひとりがキャリアオーナーシップを持てる社会の実現です。当然、ミッションは掲げるだけでは意味がありません。実現するためには、社内外の皆さんに共感してもらい、協力してもらう必要があります。

西村 日本で「はたらく」の捉え方を変えようと思ったら、たしかに1社だけの力では難しい場面は出てきそうですね。

伊藤 そうなんです。そこで、まずは私たちがどんなミッションを目指しているのか、そのために実際にどんな活動をしているのかということを知ってもらう必要があります。どうやって知ってもらうか考えた結果、生まれたのが「キャリアオーナーシップ リビングラボ」でした。

西村 ミッションを社会に発信し、推進するための協力者を集めたいというのが、発足のきっかけでしたね。

伊藤 はい。加えて、このプロジェクトを通して、「キャリアオーナーシップを持つためにはどうしたらいいのか」「キャリアオーナーシップを育むことに価値があるではないか」といった議論が広まってほしいという想いもありました。キャリアの舵を自分で取れていないと、目的も見えなくなり、何のためにはたらいているのか分からなくなる。こんなに悲しいことはないと思うのです。

西村 確かに、「はたらく」というのは決して、我慢して耐え抜くものじゃない。

伊藤 おっしゃるとおりです。でも、それをどうしたらうまく伝えられるのか、一緒に考え、議論していく仲間を社外に増やすための具体案が思い浮かばなくて……。なかなか「これだ!」というアイデアが出なくて悩んでいたときに、同僚から西村さんを紹介してもらったのです。

西村 なるほど。実は、伊藤さんを紹介してもらう前から、私のほうでもパーソルキャリアの方と一緒に取り組みたいことがあり、相談させていただいたのがきっかけにつながっていきました。ですから、話をもらった瞬間に「ぜひ!」と即答したのを覚えています。

あらゆる人が共感できてこそ「はたらく」の在り方が変わっていく。

同じ時期に、同じような構想を2人が持っていたこと。そして、共通の知人がいたこと。幸運にも出会った2人は、どのようにしてプロジェクトを形にしていったのか。

伊藤 西村さんのアドバイスもあって、まずは「キャリアオーナーシップとはそもそも何なのか」という概念を整理するところから始めました。実は、リビングラボを始める以前から、社外の方と「これからの時代は、キャリアオーナーシップが大切だ」という話をしていましたが、「そうだね」とは言ってくれるものの、なんとなく話がかみ合わないということがよくあったのです。それで、概念自体が定まっていないということにあらためて気がつきました。何せ、それまでキャリアオーナーシップとは「自分のキャリアにオーナーシップを持つことだ」といった抽象的な話をしていましたから(笑)。

西村 これは、どの取り組みにも共通することですが、まずは概念をきちんと整理しようと。そのための調査活動が第一歩でした。

※キャリアオーナーシップ 5つの中心概念

伊藤 調査では、関連しそうな書籍を30冊近く選び、隅から隅まで目を通しました。その中から、キャリアオーナーシップの説明に使えそうな考え方を抜き出して。ピックアップした数は相当なボリュームでしたよね?

西村 たしか、1,000個ぐらいはあったと思います……(笑)。それを取捨選択したり、分類したりしながら、階層構造的に整理していき、最終的に5つの領域として仮に設定しました。強く意識したのは、仕事の選び方など、はたらく上でのノウハウのような狭い領域の考え方ではなく、広く役立つ実学の観点を加えて整理することでした。

伊藤 関連書籍を選ぶ段階から、そこは一番大切にしていました。ですから、書籍はアカデミックなものではなく、社会人でも手にするようなものにこだわっています。ジャンルもキャリア論だけでなく、心理学や社会科学、人間科学や組織論に至るまでを加え、幅広い考え方を参考にしました。

西村 ゆくゆくはあらゆる人に、このプロジェクトに参画してほしい。そのためには、幅広い人が理解できて、納得できるものでなくてはいけない。そんな概念に落とし込むためには、狭い領域の話や、必要以上にアカデミックに寄りすぎた話にはしたくなかったというのはあります。

伊藤 すべての人を対象にしたいというのは、このプロジェクトもそうですし、パーソルキャリアのミッションである『人々に「はたらく」を自分のものにする力を』もそう。ある特定の人だけが実現できるだけではダメ。みんながキャリアに自主性を持てて初めて、「はたらく」の在り方が変わっていく。そんな想いが、このプロジェクトで一番大切にしたいことなのです。

共感はしてもらえても、協力してもらえないという現実。

 誰もが理解でき、共感できるように。軸となる想いはぶれることなく、キャリアオーナーシップという概念の整理を完了させた。次に着手したのは、実証実験。プロジェクトのメインコンテンツとなるこの実証実験を待ち受けていたのは、苦難の連続だった。

西村 力技ですが、なんとか概念整理はできた。次は、ようやく具体的なプロジェクト、つまり実証実験を開始していこうという話になりました。

伊藤 調査だけをしていても、机上の空論になってしまいがちです。実際のプロジェクトを動かして初めて、キャリアオーナーシップという概念が社会に理解され浸透していくのではないかと思っています。そして、実証実験を通じて、社外のさまざまなジャンルの企業や専門家を「キャリアオーナーシップをテーマとした議論」に巻き込みたかった。しかし、協力してくれる団体を集めるのには苦労しましたね。

西村 誰もがオーナーシップを持てるように、という考えに共感してくれる企業自体は多かったですね。ところが、実際にどんな実証実験をやっていこうか、一緒に考えたり、計画を練って準備を進めたりしているうちに、意外と形にならないものが出てくる。パーソルキャリアの出せる価値を見いだすためのトライアルアンドエラーでもあったと思います。

伊藤 「みんな共感してくれたのにどうして……」と当時は落ち込みましたね。しかし、今振り返ってみると当然というか、こちらの考えが足りていなかったなと思っています。具体的には、こちらから協力企業に提供できる価値という部分が十分に設計できていなかったなと。

西村 金銭的な利害関係ではなく、想いでつながっていくプロジェクトにしたいという基本的な考えがあります。では、金銭以外にどんな価値が提供できるのか。技術があればその技術が軸になりますし、明確なリソースがあればそれも軸になる。ここは苦労したところでしたが、最終的には良い着地ができたと思っています。

伊藤 もちろん、価値はたくさんあります。社員が「はたらく」に前向きになれれば生産性も上がりますし、そうした環境がある会社だと発信することは採用上の強みにもなる。ただ、そうした価値を当時はうまく伝えきれていなかったように思います。そこは、今後も意識して改善していきたいポイントですね。

ある社員の副業がきっかけで、地方自治体を巻き込んだ実証実験がスタート。

プロジェクトの成否を左右する実証実験。その第一歩である協力企業探しから、いきなり困難に直面した伊藤と西村。しかし、部署の垣根を越えた連携をきっかけとして、無事、実証実験第一弾が動きだすこととなった。

西村 パートナー組織とのプロジェクト組成には多少苦労しましたが、たまたま私たちが提供できる価値がかみ合って実証実験の第一弾となったのが、長野県塩尻市における地方短期副業実験でした。ちょっと直球だけど、結構面白くなるかもしれないと議論を重ね、設計を詰めていきました。

伊藤 これまでの調査から、キャリアオーナーシップを育んでいく上で「越境」というものがキーになりそうだと感じていました。家や職場といった慣れ親しんだ環境から飛び出すことが、キャリア観を広げることにつながりそうだと見えてきたのです。

西村 短期副業であればもう少しハードルを下げつつ、越境体験ができるということですね。

伊藤 そこで西村さんに紹介いただいたのが「日本一おかしな公務員」として有名な塩尻市の山田崇さんと地域・人材共創機構「CAREER FORプロジェクト」の皆さんでした。CAREER FORの皆さんは、「地域社会と向き合って自分の人生にオーナーシップを持ってはたらくくこと」を「ローカルキャリア」と定義し、さまざまな活動をしており、お会いしたその日から意気投合したのを覚えています。

ただし、いざ一緒に何か実験をしようとなるとなかなか進まなかったのですが、そこに救世主が現れました。CAREER FORに参加している5地域の一つ、塩尻市で副業していたパーソルキャリアの社員がたまたまいたのです。以前、私は彼の本業(doda)の仕事をPRプロデューサーの立場でサポートしたことがあり、顔見知りでした。そこで彼に協力してもらいながら塩尻市役所とパーソルキャリア社内にアプローチしたことで、実験の構想が「doda地方短期副業プロジェクト」として形になり、一気に動きだしました。

※副業しているパーソルキャリア社員のインタビューはこちら

西村 このプロジェクト以外の仕事でも、塩尻市とは複数の官民連携のプロジェクトをご一緒してきた経緯もあって、そうした活動に前向きであることは感じていました。加えて、パーソルキャリアの方も塩尻市で副業しているとのことでしたし、地方で副業をすることで何かキャリアにプラスになるのではないか。そう思い、まずはプロジェクトのお話を持ちかけてみた。

伊藤 そしたら、塩尻市側でも以前から副業誘致の話を検討していたのです。ぜひ一緒にやりましょうという返事をいただけたときは本当にほっとしました……(笑)。この「doda地方短期副業プロジェクト」であれば、当社の主力事業である人材紹介サービスを使って、実際に人を紹介できる。まさに先ほどお話しした金銭以外の分かりやすいメリットがあったというのも、協力をいただけた理由だと思います。

西村 こう話すと、たまたまパーソルキャリアさんに塩尻で副業している方がいたとか、たまたま塩尻市も同じようなことを考えていたとか、偶然のおかげでうまくいったと思う方もいるかもしれません。たしかに運に助けられた部分もありますが、その運は自分たちで呼び込んでいけるものだとも思っています。

伊藤 私もそう思います。パーソルキャリアには部署の垣根を越えて広く協働するカルチャーがあります。私自身も仕事でのつながりを、それ以降もずっと大切にしていた。そして、西村さんが仕事を通じて官民連携への知見も蓄えてくださっていた。これらは偶然ではなく、日々の積み重ねの結果でしたね。

西村 主体的なキャリア形成でも同じことが言えますよね。社会人として、どんなキャリアを歩んでいくのか。そこには運も絡んできますが、それを機会として活用できるか、そもそも機会を呼び込めるか。

伊藤 プロジェクトの推進を通じて、私たちも気づかぬうちにキャリアオーナーシップを体現していたのですね。なんだか自分で言うと恥ずかしいですが(笑)。

キャリアオーナーシップを、もっとみんなのものへ。

塩尻市における地方短期副業プロジェクトは、無事受け入れも完了して既に動きだしている。参加者へのヒアリングも行い、手応えも感じているという。しかし、これはまだ第一弾。続く実証実験の計画や、プロジェクトを通した社会貢献を含め、2人が描くゴールはまだまだ先にある。

西村 塩尻市役所のご協力もあり、もう参加者は実際に、塩尻市で副業を始めています。先日、彼らへのヒアリングも行い、示唆深い回答をたくさんもらいました。

当初、慣れない環境や新しいはたらき方をする中で成長があったという感想を想定していましたが、例えばある方の意見は「自分の力の発揮のしどころが分かった」というもの。自分の業界の壁を越えた領域に関心を持つきっかけになり、その領域で自分の良さや強みが活きていることを実感しました。

西村 まだこれからレポートをまとめるところですが、今回の実験と検証インタビューからは、副業や転職だけでなく、部署の垣根を越えた協働などもキャリアオーナーシップを育む上でプラスになるのではないかという新たな仮説も生まれました。今後、より定量的な検証も行っていきたいと思います。

伊藤 検証したいことは尽きないですよね(笑)。地域活動への参加や投資教育(金融リテラリーの向上)がキャリアオーナーシップに与える影響とか、企業がCSRなどで取り組んでいる「小中学校への出前授業」が講師側である大人に与える影響とか。そうしたプロジェクトをやりませんかという声も社内外から既にいくつかもらっています。もちろん、塩尻市で成功したプロジェクトもこれで終わりではなく、もっと対象都市を広げていく予定です。

西村 誰かが先陣を切って、新しいプロジェクトを生み出していければ、取り組みへの挑戦のハードルもきっと下がっていくはずだと思います。そうした価値が、リビングラボには内包されています。つまり、鏑矢(かぶらや)となる価値です。

伊藤 そのとおりだと思います。キャリアオーナーシップとは何か、より良いはたらき方とは何か。もっとみんなで考え、行動するきっかけを生み出していけたらと思います。

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