就職活動をする際、求人票などに書かれている「みなし残業」という言葉を目にすることがあるかもしれません。みなし残業とは、あらかじめ決められた残業時間に対して定額の残業代を支払う制度です。この制度は日本の労働環境の中で広く採用されており、特に正社員の募集要項で見ることも少なくありません。本記事ではそんな、大学生の方にとってはあまり聞きなじみのない「みなし残業」について解説していきます。
みなし残業について
みなし残業とは?
「みなし残業」という言葉を、求人情報などで見たことはありませんか? これは、残業代をあらかじめ想定した固定の金額で計算し、給与に含めて支払う仕組みのことです。例えば、ある月に特に残業が少なかったとしても、約束された一定額の残業代は支払われます。一方で、みなし残業時間の範囲内であれば、追加で残業代が支払われることはありません。
定額(固定)残業代と言い換えることもある
みなし残業は、「定額残業代」や「固定残業代」とも呼ばれています。これは、事前に定められた残業時間に対する代金が固定で支払われるためです。例えば、「月給に30時間分の残業代が含まれる」という形で、求人票に記載されることがあります。この場合、実際に30時間残業をしてもしなくても、月給自体は変わらないということになります。
みなし残業は20~45時間が一般的
みなし残業の時間は、多くの企業では20時間から45時間の範囲で設定されています。この時間は労働基準法36条で定められた「36協定」に基づいたもの。「36協定」は、残業時間の基準である45時間を超えないようにするために労使間で結ぶ合意協定のことです。
なお、みなし残業を何時間にするかは、会社と従業員間で労働条件を協議し、決定することになります。
決められた時間を越えると残業代が追加で支払われる
みなし残業代は、あらかじめ定められた残業時間分の代金が含まれていますが、それを超える労働をした場合はどうなるのでしょうか。
法的には、超過分について残業代が追加で支払われることになっています。例えば、45時間のみなし残業が設定されている会社で50時間残業した場合、5時間分の残業代は追加で支払われます。
通常の残業との違い
就職活動をしていると、よく耳にする「残業」という言葉。しかし、みなし残業と通常の残業には大きな違いがあります。通常の残業とは、働いた分だけ残業代が支払われるシステムです。つまり、残業時間が多ければ多いほど収入が増え、逆に残業をしなければその分の収入は得られません。
一方でみなし残業の場合は、実際に残業をしなくても、あらかじめ定められた残業代が支払われるという特徴があります。これには、給与が安定するというメリットがあります。また、実際の残業時間にかかわらず定額が支払われるため、労働時間が短い月でも給与が変わらないという点で、残業が少ない従業員にとってはメリットを感じる部分もあるかもしれません。
裁量労働制との違い
みなし残業とよく比較されるのが「裁量労働制」です。しかし、これはみなし残業とは根本的に異なる制度と言えます。なぜなら裁量労働制は、仕事の遂行に要する時間を労働者自身の裁量で決定できる制度だからです。裁量労働制は、ある意味では長時間労働を増長してしまう可能性がある仕組みとも考えられます。そのため、企業による働き方改革が叫ばれるようになってからは採用する企業も減ってきているのが実態です。
みなし残業のメリット
定額の残業代が保証される
みなし残業制度の大きな特徴として、「定額の残業代が保証される」という点があります。これは、仕事の忙しさにかかわらず、あらかじめ決められた残業代が毎月給与に含まれるというものです。たとえその月に一度も残業をしなかったとしても、定額の残業代は支払われます。
このような給与体系は、毎月の収入が安定するため従業員個人の予算計画が立てやすく、経済的な安心感を持つことができます。特に、収入が変動しやすいフリーランスの人や契約社員に比べると、安定した収入を確保しやすい点は、大きなメリットと言えるでしょう。
柔軟な勤務時間が実現できる
通常の残業が「必要に応じて」行われるのに対し、みなし残業では「自身の判断」で勤務時間を調整することがある程度可能です。毎回上司に残業申請を出す必要がなく、その日の業務量やプライベートの予定に応じて、臨機応変に勤務時間を決めることもできます。自分の仕事のペースを自分でコントロールできるという点では、比較的自由度が高い働き方と言えるでしょう。
仕事が早いと得することも多い
みなし残業制度では、仕事の効率が直接収入に反映されるという点もメリットになり得るでしょう。定額の残業代が保証されているため、仕事を早く終えられれば、残業をしなくても残業代が支払われます。効率的に働くことが促されることから、時間管理能力や業務スキルの向上にもつながります。
例えば、一日の業務が予定よりも早く終わった場合、通常の残業制度であればその日の収入は下がる懸念がありますが、みなし残業であれば一定の残業代が保証されているため収入に影響はありません。これは、業務効率化を図ることができる人にとっては、特に大きなメリットとなるでしょう。
みなし残業のデメリット
残業前提の働き方になるリスク
みなし残業の制度を採用している職場では、給与に残業代が最初から含まれているため、残業をすることが前提の働き方になりがちです。つまり、残業が当たり前の文化となり、それが長時間労働を助長する恐れもあります。実際に、定時での帰宅が難しい職場環境では、仕事とプライベートのバランスを取ることが難しくなる恐れもあるでしょう。
みなし残業が多いと労働時間が長い可能性
みなし残業の時間が多く設定されている職場は、その分、「残業が発生しやすい」と会社が想定している場合があります。特に、みなし残業の上限が高く設定されている場合、それが実質的な労働時間の目安となりがちで、長時間労働が常態化するリスクが高いと言えます。
長時間労働は労働者の健康に悪影響を及ぼすだけでなく、社会生活や家庭生活にも支障をきたす原因となります。そのため現在ではあらゆる業種・職種で長時間労働の是正が望まれており、みなし残業の時間設定には慎重な検討が求められるところです。
時間管理が雑になりやすい
みなし残業制度の下では、自由度が高い分、個々の時間管理能力がより問われます。柔軟に働ける利点がある一方で、自己管理が不十分だと、知らず知らずのうちに労働時間が増えてしまうリスクがあります。
また、残業時間があらかじめ給与に含まれているため、残業に対する罪悪感が薄れ、長時間労働が当たり前になる傾向にあるのです。その結果、業務の効率を落とし、自分の時間を有効に使えなくなる恐れがあります。
大学生がみなし残業を理解する重要性
求人票にある待遇や条件を正しく理解できる
大学生が社会に出る前に、求人票に記載されている待遇や条件を正しく理解することは非常に重要です。特に給与の内訳を理解することは、就職活動において大きなポイントとなります。みなし残業が含まれている場合、提示された給与がどの程度残業代を含んでいるのかを把握し、実際の手取り額を予測する必要があります。
働き方についてイメージしやすくなる
みなし残業制度がある職場は、業務の性質上、個々の裁量で効率的に仕事を進めることが求められる傾向にあります。これは、柔軟な働き方が必要とされる業種であることを意味しています。例えば、クリエイティブな仕事やプロジェクトベースの業務など、結果を出すためには自由な時間配分が許される職種などが該当します。
一方で、企業が残業を前提としている場合などもあるため、みなし残業が設定されているか、その時間はどの程度なのかを事前に把握しておくことは、リスクを避けるためにも重要です。
「想定と違った」が起きづらくなる
みなし残業を含む給与体系を理解しておくことは、将来的に「想定と違った」を防ぐことにつながります。提示された給与が基本給のみなのか、それとも残業代を含んでいるのかによって、年収の予測が大きく変わってくるからです。残業代が含まれている場合、基本給が高く見えても実際の手取り額はそれほど多くないケースがあることを理解し、求人情報を見極める力が必要です。
事前に知識があれば、実際に働き始めてから「もらえるはずの残業代がない」といったギャップに戸惑うことなく、自分の価値観や生活スタイルに合った職場を見つけることが可能です。
まとめ
本章では、みなし残業の基本的な概念からそのメリット・デメリット、そして大学生がこれを理解することの重要性について考察しました。みなし残業制度は、一見すると収入の安定や勤務時間の柔軟性というメリットがありますが、同時に長時間労働のリスクや自己管理の難しさというデメリットもはらんでいます。 働くということは、ただ給与を得るだけでなく、自己実現や生活の充実にも直結します。そのため、どのような働き方を選択するかは自身の価値観やライフスタイルに照らし合わせて慎重に決めるべきです。みなし残業制度についての知識は、そうした選択をする上での一つの指標となるでしょう。
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