「Salaries」を立ち上げた私が、パーソルキャリアで事業を創造する理由。

ジョブごとの報酬水準を企業へ提供する、新サービス「Salaries.jp(以下Salaries(サラリーズ))」。パーソルキャリアとパーソル総合研究所の共同事業として、2020年秋にはパイロット版がリリースされ、今春には正式版のサービス提供を開始する予定だ。 リリース前から問い合わせが殺到しているこのサービスの中核を担うのが、2020年夏にパーソルキャリアへ入社したばかりの正能だ。学生時代から自身で企業経営を行うほか、広告代理店や大手電機メーカーでの勤務、大学院特任助教などのさまざまな経験を積んできた彼女が、「Salaries」で実現したい世の中とは。そして正能自身が考える、これからのキャリアの在り方とは。


正能茉優(しょうのう まゆ)

2020年 中途入社

パーソルキャリア株式会社 サービス企画開発本部 サービス企画統括部 プランニンググループ

大学在学中に小布施若者会議を立ち上げ、地域の商材を女性・若者目線でプロデュースする株式会社ハピキラFACTORYを創業。株式会社博報堂、ソニー株式会社を経て、2020年7月パーソルキャリア株式会社入社。慶應義塾大学大学院特任助教。

100万人のデータを基に、フェアな処遇を実現する。

これまでも、企業の人事に対して報酬データを提供するサービスや、はたらく個人に向けて転職時の年収を予測したりするサービスが、世の中になかったわけではない。しかし「Salaries」は、企業に報酬レンジを提供してフェアな処遇を実現するだけではなく、報酬と個人の経験やスキルの関係性にも着目し、はたらく人の可能性を広げていくことを目指したサービスだ。

― 早速ですが、「Salaries」のサービスが、これまでの報酬調査や報酬算出サービスとはどんなふうに異なるのかを、詳しく教えてください。

正能 「Salaries」は、「doda」が蓄積してきた約100万件のデータを基に、企業の人事に対してジョブごとに報酬水準を提供するサービスです。まず、「機械学習によってグレードを自動で振り分けられる」という点で、従来の報酬調査サービスとは大きく異なります。これまで企業人事が時間をかけて行ってきた「手動でグレードを振り分ける」という作業を省くことで、大幅な効率化を実現しました。

また「Salaries」は、個人の経験やスキルが社会でどのように評価されるかを可視化するサービスでもあります。例えば、ある業種・職種・グレードで、どのようなスキル・経験が給与アップにつながるのかが分かります。給与をアップさせるスキルや能力を明らかにすることで、人材育成や兼務・異動などの配置転換の際などでも、企業人事がこのデータを活用できるのではないかと期待しています。

― 社会で評価される個人の経験やスキルを、具体的にはどのように可視化していくのでしょうか?

正能 「Salaries」では、スキルや経験をキーワード化したものを「スキルワード」と呼んでいますが、これは皆さんが想像されるような従来型のスキルとは少し異なるのが特徴です。例えば、電機メーカーやメディアといった業種では、「褒め」というスキルワードが給与アップに大きな影響を与えます。また別の企画職という職種では、「模索」や「チームワーク」といったスキルワードが給与アップに大きくつながる、といった具合です。私が特に「Salaries」の中で可能性を感じているポイントの一つが、この「スキルワード」なんです。

 

これまでの労働市場では、その人の給与を決めるのは前職での実績や年収、マネジメント経験の有無といった、明確な基準でした。しかし「Salaries」では、「褒め」や「コミュニケーション」「チームワーク」「模索」など、一見抽象的な、でも重要な経験と給与との関係を可視化することができます。だからこそ、はたらく個人がどんな経験を積んだらいいのか、あるいはどんな業種・職種でより評価されるのかも分かる。人事の目線に立って考えると、はたらく人にどんな経験を積んでもらうことが大事なのか、またどんな業種・職種がより向いているのかも分かるというわけですね。

「Salaries」では今後、こうしたデータを活用しながら、報酬と個人の経験やスキルの関係性に着目し、はたらく人たちの可能性を広げていけるようにチャレンジしていきたいと考えています。

― これまでは可視化されていなかったスキルや経験と、報酬・給与をひもづけていくという試みですね。これまで、そのようなひもづけが重視されにくかったのは、どうしてでしょうか?

正能 一つは、単純に日本的な「メンバーシップ型雇用」の形を取っている企業が多かったことが関係していると思います。メンバーシップ型雇用は、基本的には終身雇用でジェネラリストを育成します。年収は年功序列で上がっていく仕組みのため、スキルや経験と年収をひもづけて考えるという風習が、あまりなかったからではないでしょうか。

― しかし、次第に日本の雇用形態に変化が見え始めて、「Salaries」はそこに注目したわけですね。

正能 そうですね。近年、日本社会では「ジョブ型雇用」が注目されています。これは組織に必要な職務や責務をベースに人材を雇用して処遇する、という雇用形態ですが、ジョブ型雇用の導入にあたって企業が抱える課題の一つに、「給与額をどのように決めるのか」があります。「メンバーシップ型雇用」を前提としている日本では、「ジョブごとの報酬水準」がまだ確立されておらず、そうした情報を容易に得るのが難しいのが現状です。でも、これからジョブ型雇用が進む世の中で、報酬制度や人事制度を検討するために、「Salaries」の特徴が活かされるのではないかと考えています。

越境人材を社会で前向きに捉えてもらうには、経験の価値化が必要だった。

ジョブ型雇用に着目した「Salaries」のサービスは、現代のはたらき方に合致した。また、コロナ禍をきっかけに広がったリモートワークやテレワークも、ジョブ型雇用への注目を集めた要因の一つだ。

― 確かにジョブ型雇用であれば、個々の能力が重要視されるため、かなり「いま」のはたらき方に即していると感じます。実際に反響も大きかったのではないでしょうか?

正能 2020年10月にプレスリリースを出したときには、やはり大きな反響がありました。企業さまはもちろん、企業さまの採用をサポートしている社内のRA(リクルーティングアドバイザー)からも、問い合わせが殺到しました。当時はサービスリリース前で、お客さま対応の窓口を設置していなかったので、大変でしたね(笑)。

しかしたくさんのお問い合わせをいただいたことで、日本でも多くの企業さまが、ジョブ型雇用への興味や、現状の報酬制度への課題を持っておられることを直接感じることができました。企業さまにとっても、フェアな処遇をどのように実現していくかが大きな課題の一つなのかもしれない。そう考えると、今後「ジョブ型雇用」へと雇用形態が切り替わっていく日本社会で、「Salaries」が企業さまの悩みに寄り添えるサービスになっていけるのでは、と改めて感じました。

― このようなサービスの企画に関わることになったのは、どういった経緯と、正能さんご自身のどんな考えがあったからでしょうか?

正能 もともと、私が大学院で「越境人材」と呼ばれる人材の価値について研究していたのがきっかけでした。越境人材とは、ある組織に本来はいない、組織の枠を超えてやってきた異質な人材のことです。日本社会で、「異質な存在」というのはどうしても避けられがちですが、私はこの異質な存在が組織にもたらす変化に対してすごく興味がありました。そして、変化を起こせる異質な存在・人材の価値を「見える化」したかったんです。それが、パーソルキャリアへの転職を希望した理由でした。

― 越境人材のもたらす変化とは?

正能 例えば、都市部と地域、大企業と小さな企業、ベテラン層と若手。文化や考え方がまったく異なる会社や組織を超えて、いろいろな人たちが集まってくると、これは想像するのがたやすいですが、これまでにない新しい考え方がその組織に入ってきたり、新たな人のつながりが生まれたりします。他にも、「それまで誰も経験したことがない、でもその組織にとっては必要な経験」を積んできた人が入ってくることも。こうした異質な存在が組織に入ることで、考え方や文化、仕事の進め方が変わっていったりする。でも、いざ異質な存在を目の前にしたら、怯んでしまうのが人の性でもあると思うんです。

だからこそ、異質な存在や人材の価値を「見える化」して、組織の枠組みを超えて、それらの価値を共有できるようにしたいと考えていました。私にとっては、そんな自分の実現したい事業の第一歩が、この「Salaries」なんです。

― 大学院で研究を進めたり、ご自身で企業を設立してサービス開発を行ったりする選択肢もあったのかなと思いますが、なぜあえてパーソルキャリアでサービスを立ち上げることを選ばれたのでしょうか?

正能 確かに、自分の会社で一からサービスを立ち上げたり、どこかの企業で人事企画などをやったりすることもできたかもしれない。でも私は、パーソルキャリアで自分の考える事業に取り組みたいと思いました。なぜなら、パーソルキャリアにはこれまで蓄積してきた「はたらく」に関するデータがあります。転職の面接で私がやりたいことを話したときに、ちょうどパーソルキャリアの中でも、私が目指す「はたらく人の経験・スキルを見える化する」新たな事業が模索されていると聞き、ジョインさせてもらいました。

この会社はみんな、はたらくことへの理想と意志を持っている。

一方、正能はパーソルキャリアの文化や想いの部分にも惹かれて、仲間になりたいと感じたとも語る。

― 「Salaries」の立ち上げを行うにあたり、データの蓄積があること以外で、パーソルキャリアに期待していたことはありますか?

正能 自身のやりたいことを知人に話してみたところ、パーソルキャリアなら実現できるかもしれないと提案してもらいました。パーソルキャリアの存在は、以前「はたらいて、笑おう。」というコピーの下でマーケティング活動が始まった際に、インタビューを受けたことがあるので知っていました。

そのときに改めて、「はたらいて、笑おう。」という考え方にピンときたんです。意志のある、素敵な言葉ですよね。もしこれが「笑って、はたらこう。」だったら、笑うことが意図的なものでも許されてしまう。そうではなく、「はたらいて、笑おう。」という表現に、「はたらいた結果、笑えるようなはたらき方をするぞ。つくるぞ」という強い意志を感じました。そんなパーソルキャリアが目指したい社会に共感できたので、「この会社でなら、いい仕事ができるかもしれない」と思ったんです。

― 入社前から、すでに「いい仕事ができる」という確信が持てたと。

正能 そうですね。当時、採用の面接をしてくれたのが今の上司でした。自分のやりたいことを伝えたら、すごく共感してくださって、「ここならば」と確信を得ました。

大企業での新規事業の立ち上げは、どんな判断軸を持つ会社なのかが大切だと私は思っています。「マネタイズできる・できない」というジャッジはもちろん大切ですが、関わる人の考えや目指す社会への想いを大切にして事業をつくろうとしているのが、パーソルキャリアの文化だと感じました。パーソルキャリアには、多少マネタイズの難易度が高くても、「はたらく」を変えていこうという意志がある。だから、この会社で新規事業を立ち上げるなら、私も自分が想う大義や正義を大切にできる。実際に入社してサービスをつくっている現在も、そう感じています。

― サービスを立ち上げるための基盤と、はたらく人の想い。その両方に期待が持てたというわけですね。

正能 はい。基幹事業で得た膨大なデータをある企業だからこそ、イノベーションの可能性を感じましたし、そのデータで世の中を変えるサービスをつくれるかもしれないという面白さがあります。一方で、関わる人の想いがきちんと反映されていく文化もあるから、自分自身がサービス立ち上げに携わっているという手触り感もある。そのバランスが絶妙ですね。

― そのバランスの良さが生まれる理由は、何だと感じますか?

正能 何でしょうね……。私が日々感じている範囲で答えると、「はたらいて、笑おう。」に共感して人が集まっているからでしょうか。メンバーの個性は本当にさまざまですが、皆さん真摯に目標へ向かっていく姿勢は同じなんです。実は、今一緒に働いている人たちの年齢も出身大学もよく知りません。でも、そんな属性はさほど重要ではないし、気にもなりませんね。第一、学閥や属性なんていう表面的なことよりも、「どんなサービスをつくって、どんな社会をつくっていこうか」という、もっともっと大事な話が毎日できるんですから(笑)。

好きな仕事を、好きなように。ビュッフェのようにキャリアを考えよう。

最後に、これまで多くの経験をしてきた正能自身が考えるキャリアの在り方について聞いてみよう。彼女が大切にするのは、あくまで「好きなものを好きなように」という意識。一つの企業に所属し続けることも、多様な仕事にチャレンジしてみるのも、その人のやりたいことを選ぶべきだと、彼女の生き方そのものが教えてくれるのだ。

― ここからは、正能さんが考えるキャリアの在り方に関しても、聞いてみたいです。

正能 私は、自分のはたらき方を「ビュッフェキャリア」と呼んでいます。世の中では、「副業」や「パラレルキャリア」といった言い方があるけれど、それとも少し違うんですね。「好きな仕事を、好きなバランスで、好きなだけ」という想いがあります。

― ビュッフェで食事するように、好きなものを好きなだけ、キャリアを楽しむということ?

正能 そうそう。ホテルによくあるビュッフェと同じように、好きな仕事を、好きなバランスで、好きなだけ楽しむというのが、キャリアの幸せの基本かなと。カレーでもパスタでもケーキでも、好きなものを好きなバランスで好きなだけ。もしもカレーが好きだったら、カレーだけを食べている人生も良し。パスタにも興味があったら、カレーを食べながら、パスタにもちょっとだけ手を出してみてもいいし、ケーキを定期的に挟むことで休憩してもいい。同じことをキャリアでも考えてみてほしいのです。一つの企業にずっと所属したい人はすればいいし、あれこれ試したい人はやってみればいい。どんな仕事もチャレンジしてみればいいし、始めたからといって、無理に続ける必要もないんです。

― 言われてみると「確かに」と思える一方で、それを実践できている人はまだ少ないかもしれませんね。

正能 ビュッフェキャリアを実践できると、心と乖離なくはたらけるから、自然に心地良くはたらけるのではないかと思います。

― はたらいている人はもちろん、これからキャリアについて考える人にもぜひ知っておいてほしいお話です。

正能 ええ。特にこういった考え方は、「こうしなくてはいけない」という上からの力を強く受けやすい学生さんや若手の人たちにこそ、意識してもらえたらうれしいです。先ほど「ビュッフェキャリア」という言葉が出てきたので、また食べ物で例えてみたいと思うのですが、若い人たちはよく、特徴的で得意な領域やスキルがないことに悩みがちです。でも、私はそれでいいと思っています。自分のことも、目の前にあるチャンスも、「小麦粉」だと思っていろいろと挑戦してみてほしいんです。

― 「小麦粉」ですか?

正能 私、マクドナルドのグラコロバーガーが、ほぼ全て小麦粉でできているという話が大好きで(笑)。

小麦粉という食材は一見、地味だし特徴がないけれど、パンにもなれるし、マカロニにもなれるし、揚げ物の衣にもなれるし、ホワイトソースにだってなれる。これってすごいことだと思いませんか? 若手のうちに積む経験は、そういう何にでも化ける基本的な経験がほとんど。だからこそ、「これをやって何になるの?」と思えるような経験ほど、「いつかマカロニを作るときに使えるかも」「いつかホワイトソースを作るなら便利かも」などと考えられるチャンスでもあると思うんです。それをどう使って、何を作るのかは自分次第。

メインの仕事では、せっせと小麦粉を作りながら、ビュッフェキャリア的にいろいろ試してみて、その中で見つけた好きなものを続けて、そこでまた次の小麦粉作りをして。そういうことを繰り返していくうちに、自分が何者になるかを決めていけばいいんだと思います。私自身も、まだまだ小麦粉作りの真っ最中ですよ。