就職活動を始めるにあたり、「民間企業だけでなく公務員にも興味がある」「どっちを選ぶべきか迷っている」という方も少なくないでしょう。公務員と民間企業の両方で就活をすることも不可能ではありませんが、どちらかに絞って対応したほうが準備は進めやすくなります。
本記事では公務員の就活に関して、民間企業との違いや向いている人などを解説します。
公務員の基本情報
公務員と言われても、具体的にどのような人を指すのか、どういう種類の仕事があるのか分からないという方もいるのではないでしょうか?まずは、公務員の基本情報について確認しておきましょう。
公務員とは?
公務員とは、国や地方自治体の組織に勤務し、社会の基盤となる仕事をする人のことです。人事院の資料によると、2021年度において国家公務員は58.9万人、地方公務員は276.4万人で、合わせて335.3万人が公務員としてはたらいています。
民間企業は基本的に利益を目的として活動していますが、公務員は異なります。公務員は組織の利益を目的とせず、国や地域全体がよりよくなるため、人々が安心して暮らせるために活動しています。
公務員は大きく分けて2種類ある
公務員は、大きく分けると国家公務員と地方公務員の2種類です。それぞれの基本的な役割について見ていきましょう。
国家公務員
国家公務員の役割は、国民全体のために働くことです。政府の意向に基づき、国の運営に関わる仕事に従事します。国家公務員には、中央省庁を中心に将来の幹部候補として働く「総合職」と、より地域と直接関わる「一般職」の二つがあります。総合職は政策の企画立案や国家の重要な業務を担当し、一般職は主に行政事務や地域サービスに従事します。
国家公務員は地方公務員と比べると扱う事業の規模や影響力が大きく、また転勤がある場合はその異動範囲も広いのが特徴です。
地方公務員
地方公務員の役割は、特定の地域に貢献することです。地方自治体の限られた範囲で地域に密着して働くため、国家公務員よりも地元の人との関わりが多い仕事と言えます。地方公務員は、都道府県や市町村が管轄する組織に勤務します。都道府県と市町村を比べると、前者のほうが仕事の規模や転勤の範囲が広い傾向があります。このため、自分の出身地やゆかりのある土地、好きな自治体などに勤務することを志望する人も多くいます。
職種に応じて職務内容や難易度が大きく異なる
公務員はその職種に応じて仕事内容や、合格するための難易度が大きく異なります。代表的な例を見ていきましょう。
国家総合職
かつては「国家1種」と呼ばれていた国家総合職。現在は「国家公務員採用総合職試験」に合格し、官庁訪問を経て採用される人が対象です。国家総合職は公務員の中でも最高峰の難易度で、「国内有数の厳しい試験」として知られています。
国レベルでの政策や制度の立案、重要な行政業務の遂行など、高度な知識や専門技術が要求される仕事が中心です。具体的な仕事内容は所属する省庁により千差万別ですが、例えば財務省であれば国の財政について、防衛相であれば国家の安全について、国のための施策を立案していきます。
国家一般職
国家一般職はかつて「国家2種」と呼ばれていました。現在は「国家公務員採用一般職試験」に合格し、官庁訪問を経て採用される人が対象です。国家総合職に比べて難易度は低いですが、それでも他の公務員試験に比べるとかなり高い難易度と言えます。国家一般職は主に定型的な事務を担当し、総合職よりも地域との直接的な関わりが少ない点が特徴です。
国家総合職が政策の企画立案といった高度な知識や技術が必要とするのに対し、国家一般職では主に定型的な事務を職務とするのが両者の相違点です。
東京都Ⅰ類A/Ⅰ類B
日本の首都である東京都庁に勤務する公務員の中でも、上位にあたるのが東京都Ⅰ類AとⅠ類Bです。両者とも東京都政の重要なポジションを担い、リーダーとしての役割を果たします。
Ⅰ類AとⅠ類Bでは受験資格が異なります。Ⅰ類Aは大学院卒業程度の受験資格が必要であり、Ⅰ類Bは大学卒業程度が対象です。このため、Ⅰ類Aは難易度や初任給がⅠ類Bよりも高い傾向にあります。ただし、「大学院卒でないとⅠ類Aを受験できない」といった制約はありません。
地方上級
公務員試験における地方上級とは、大卒程度の方が受験する試験区分を指し、合格すると地方の県庁や政令指定都市の役所などに勤務します。県庁などにおいては将来の幹部候補生という立場であり、昇進や給与などの待遇面でも優遇されることが少なくありません。
地方上級は市町村を超えた枠組みで仕事を行いますが、内容は多岐に渡り、事務手続きを担う行政職と技術的な技術職に分別されます。
警察
警察は、国家総合職と同じく国家公務員採用総合職試験に合格したキャリア(警察庁所属)と、ノンキャリア(都道府県警察所属)に大別されます。警察庁は警察組織のトップであり、国家に関わる公安での勤務や、警察組織全体を法律に則って管理・運営することが職務です。
一方、ノンキャリアと呼ばれる警察官は各都道府県が管理し、その地域で発生した事件を直接担当します。警察官の場合、交番勤務であれば昼間勤務、夜間勤務、24時間勤務といったように変則的なはたらき方になることも少なくありません。また、時には危険を伴うこともありますが、人々の平和維持に直接関わっていることからやりがいを感じやすい面もあります。
警察は業務における危険性を考慮し、給与も平均的な公務員より高めの水準となっています。
教職
教職はいわゆる教師のことで、小学校、中学校、高等学校などで児童や生徒に対して学習指導や生活指導を行います。教師になるには、基本的には教職課程のある大学などで教員免許を取得した上で、自治体や各学校が行う試験に合格することが必要です。
主な仕事は子どもに対する授業ですが、生活面や道徳面の指導、学校行事の運営や部活動の顧問、進路指導、保護者との交流など内容は多岐に渡ります。
給与は平均的な公務員とほぼ同等ですが、現状、労働環境の過酷さがたびたび問題となっています。とはいえ、政府の働き方改革の取り組みが教育現場でもスタートしていることから、今後の改善が見込まれます。
公務員の就活プロセス
続いて、公務員になるための就活プロセスについて見ていきましょう。
公務員試験の流れ
公務員試験と一口に言っても、その種類は多岐に渡ります。国家公務員試験としては総合職と一般職、そして専門職試験があり、地方公務員としては地方上級・中級・初級や市役所、警察官などがあります。基本的には筆記試験を経ての面接試験という流れですが、警察官や消防士は身体基準や体力検査があるなど、職種によって個別の検査項目がある場合もあります。
試験日程や内容も、職種や地域によってさまざま。自分の希望する職種については、各省庁や地域の募集要項を確認しておきましょう。
就活で準備しておくべきこと
民間企業と同様、公務員になるためには準備が大切です。「安定している」などの理由から公務員は人気が高いため、しっかりと準備してライバルに差を付けましょう。
応募したい職種の詳細を調べておく
公務員試験も民間企業の就活と同じく、応募したい職種について事前調査しておくことが大切です。ここまで見てきたように、公務員といってもその種類はさまざまです。職種の詳細を調べなければ、公務員の中でも自分がどういう仕事に就きたいのかは決められません。
また、どの職種を希望するかによって、筆記試験の内容が異なる点にも注意が必要です。対策の方法も考えなければならず、面接となると志望動機や自己PRも職種に応じた内容が求められます。
事前に応募したい職種の詳細を調べ、自分なりに整理しておきましょう。
筆記試験の勉強をしておく
公務員試験においては筆記試験が非常に重要です。出題範囲も広く、ちょっと勉強した程度では対応しきれないため、大学2年生くらいから勉強を開始しておいたほうがよいでしょう。詳しくは後述しますが、独学ではなく、予備校などの外部ツール活用も検討することをおすすめします。
面接対策をしておく
公務員試験では筆記試験がかなり重要とはいえ、民間企業と同じように面接も重要視されるので対策が不可欠です。長い間頑張って難関である筆記試験を突破したにもかかわらず、わずか10数分程度の面接で不合格になった――というケースも決して珍しくありません。
公務員試験の面接では、あまり突拍子のない質問はされません。過去の質問を調べ、しっかりと一問一答の準備をしていれば、ある程度の対策はできていると言えます。面接についても、事前準備をしっかりと行いましょう。
身体検査・体力テストの対策をする
警察官や消防士といった一部の職種では、身体検査や体力テストが行われることがあります。そのような職業への就職を希望する場合は、合格した後に突然の試験があるかもしれないので、体力を維持するために日頃から運動や体力トレーニングを心がけておくことも重要です。
筆記試験勉強のコツと対策
公務員試験は参考書が数多く出版されているので、いろいろな教材をそろえてしっかり勉強すれば、独学での合格も不可能ではありません。実際、公務員試験の筆記試験を独学で合格している人も中にはいますが、予備校や大学主催の公務員講座を活用しているケースが多いと言えるでしょう。
専門の予備校などのほうが効率的に勉強でき、分からない点などをすぐに解決できるのがメリット。公務員試験を突破するノウハウも熟知しているため、さまざまな面で頼りにできます。公務員の志望度が高い場合は、まずは講座などの活用を検討しましょう。
民間企業との違い
公務員と民間企業では多くの相違点がありますが、以下では採用プロセスと仕事内容、待遇・給与の違いについて解説していきます。
1.採用プロセスの違い
まずは公務員と民間企業の採用プロセスの違いを確認しましょう。
基本的な流れは民間と大きく変わらない
公務員と民間企業では、採用プロセスの基本的な流れは大きく変わりません。具体的には、書類、筆記、面接といった形で選考が進みます。
筆記試験の比重が比較的大きい
民間企業だと評価の一つとして筆記試験が扱われますが、公務員試験は試験の得点で合否が決まるなど、筆記試験の比重が大きめです。そのため、公務員試験を受験する方は民間企業と比べて筆記試験対策にかなり力を注ぐことになるでしょう。
民間企業を志望する学生が就活を始める前から筆記試験対策を始めたり、公務員の専門学校に通ったりしながら対策を進めています。公務員を目指すのであれば、周りのライバルと同等以上に「筆記試験に対する準備」が必要です。
膨大な勉強量が必要になる
筆記試験の難易度は、ちょっとした資格試験を超えます。特に国家総合職や都庁、地方上級などは筆記試験の科目が幅広く、難関の資格試験並の勉強が必要になることも珍しくありません。
筆記試験の対策は、人によっては1000時間以上の勉強を要するとも言われています。「人によっては」というのは、出題される内容が高校卒業までの知識を含む「教養科目」と専門的な「専門科目」で、個人の基礎知識によっては勉強時間を短縮できるためです。
とはいえ、先に触れたように国家総合職などの難関の場合、多くの勉強時間が必要なことに変わりありません。短期間では間に合わないので、自身の生活環境から1日に確保できる勉強時間を計算し、計画的に勉強するようにしましょう。
2.仕事内容の違い
公務員でも民間企業でも、組織によって仕事内容はさまざまです。とはいえ、公務員がする仕事は共通して「営利目的ではなく、国民のため」に行います。それは国家総合職、国家一般職や警察、地方公務員、教職、どれでも等しく同じです。
一方、民間企業は基本的には「企業の利益創出を目的」として仕事をします。取引先や顧客に対して自社の商品やサービスを販売し、利益を得ることが一番の目的です。
3.待遇・給与の違い
国家公務員の給与は「人事院規則」によって規定されており、地方公務員の給与も国家公務員の給与に従う形になっています。これに対して、民間の場合、給与は法律で厳密に定められていません。
この前提も踏まえ、待遇と給与、そしてキャリアパスの違いを見ていきましょう。
待遇
民間企業の場合、大手であっても業績次第ではボーナスが減額、あるいは最悪ゼロという場合もあります。しかし、公務員は国によってボーナスや退職金が決められているため、比較すると待遇面は安定していると言えるでしょう。
また、公務員には民間企業ではあまり導入されていない、さまざまな特別休暇制度が定められています。「公民権行使」「ボランティア」「骨髄等ドナー」「官公署出頭」などはその一例です。
給与
公務員の給与は民間と均衡を保つように設定されています。基本的には年功序列であるため、長い期間にわたって勤めるほど給与も上がっていきます。民間の場合は各企業の給与体系に従って支給されますが、特に昨今は実力主義の企業も増えているため、必ずしも年齢が上がれば給料が上がるというわけではありません。
キャリアパス
公務員におけるキャリアパスは、基本的には決められた区分の中でステップアップをしていく形です。キャリアを自身で定めることは難しく、働き始めて数年はさまざまな仕事を経験し、適性を見極められながら進んでいきます。
民間企業のキャリアパスにおいても、ある程度は企業から提示されたものに従うケースが一般的です。とはいえ、多くの場合は企業と従業員の双方にとって望ましいキャリアパスになるよう、一方通行ではないコミュニケーションによって決められていきます。公務員と比べると、従業員自身の意思がキャリアパスに反映されやすいと言えるでしょう。
公務員に向いている人の特徴
そもそも、どういった人が公務員に向いているのでしょうか。もしまったく向いていないのに何となく公務員を志望してしまうと、苦労して働き始めてから「何か違う……」と感じてしまうかもしれません。
公務員に向いている人の特徴について確認しておきましょう。
社会貢献意識が強い人
公務員は国や地域の公益に寄与するために働く役割であり、「公衆に奉仕する存在」としての自覚を持つことが重要です。社会全体への貢献意識が強く、国民や地域社会の福祉向上につながる仕事に情熱を持てる人が公務員に向いています。
給与面で紹介したように実績評価・成果評価ではなく、年功序列で給与が変動していくため、自身の評価や給与に対して関心が強い人は、あまり向いていないと言えるでしょう。
コツコツと地道に努力できる人
公務員の筆記試験に合格するためには、受験日のはるか前から計画的に勉強をしていく必要があります。目標とする職種を見定め、自分が勉強すべき科目に対する理解を徐々に高めていかなければなりません。
また、公務員は就職後も地道な業務が多々あります。公務員の仕事は事務が基本で、細かな情報を適正に管理し、正確に運用することが求められます。具体的には、書類整理やデータ入力といった単調なタスクも少なくありません。ただし、単調とはいえ一つ間違えれば社会からの信用を失いかねない、非常に大切な仕事です。
このように、公務員になるため、そしてなった後もコツコツと地道に努力する人が向いていると言えます。
規則やルールを遵守できる人
公務員は国民の情報にアクセスしたり、重大な業務を行ったりすることも多い仕事です。働くうえで守るべき規則やルールが民間企業に比べると多いため、それをきちんと遵守することが求められます。
「ユニークなアイデアをもとにイノベーションを起こしたい」という考えではなく、既存の規則やルールを遵守しつつ、やるべきことを適切にこなせる人が向いているでしょう。
安定した環境で働きたい人
公務員の待遇面は安定しており、基本的には解雇やリストラなどがなく年功序列で昇給していきます。退職金も支払われるため、安定した環境で働きたい人に向いています。また、転勤の少ない公務員であれば、同じ職場、同じ地域で安定した生活がしやすいでしょう。
このように、公務員は安定した環境ではたらいたり、生活したりしやすいことから、大きな変化を好まない人には向いていると言えます。とはいえ、「転勤したくない」といった利己的な理由で志望しないように注意しましょう。
まとめ
公務員は国家公務員と地方公務員に大別され、職種は多岐に渡ります。とはいえ、基本的にはどの職種でも筆記試験への対策は必須で、突破するには多大な努力が必要です。
興味がある方は、具体的な職種や勉強に必要な内容などを確認し、早めの準備に努めましょう。
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