コンサルティング会社や外資系企業などのケース面接において、よく出題される課題に「フェルミ推定」があります。対策の立てづらいテーマではありますが、例題などを活用して積極的に対策しておく必要があるでしょう。
本記事では、就活はもちろん、社会人となってからも役に立つ「フェルミ推定」の例題や解答方法、そしてフェルミ推定を勉強するにあたっておすすめの本について解説します。コンサルティング会社や外資系企業を志望する学生の方は当然ですが、それ以外を志望する方にとっても知っておいて損はしない内容ですので、気になっている方はぜひ参考にしてみてください。
「フェルミ推定」とは
はじめに、フェルミ推定の定義やどのような場面で使われるものなのか、またその特徴について見ていきましょう。
断片的な情報から推論する思考法
一見とりとめもなく、予想もつかないような問題に対し、仮定から推論を展開し、理論的にひとつの答えを導き出すのがフェルミ推定です。重要なのは、そこに行き着くまでの過程をどれだけ道筋立てて説明ができるか。結論以上に論理的思考力が問われます。
例えば、「全国のコンビニエンスストアで販売されている弁当の総数は?」という問いがあったとします。この場合、まずは1店舗あたりの弁当販売数を推計します。その後、全国にコンビニが何店舗あるのかを考察し、「1店舗あたりの弁当販売数×全国の店舗数」で算出します。ちなみにこの場合、全国の店舗数を自分が知っていればその数値を用いればよいですが、知らない場合はその数も推計する必要があります。
もちろんこの方法は一例にすぎません。フェルミ推定の考え方はいくつもあり、多くの視点から答えを導き出すことができます。
実際に調査が難しいテーマが多い
フェルミ推定では、実際に調査が難しいテーマが課されることが多くあります。理由として、フェルミ推定の目的が論理的思考力や思考の柔軟性を試す意味合いが強いという点が挙げられるでしょう。
もしフェルミ推定で出された問いが、調査によって簡単にわかることであれば、知っていれば簡単に答えられてしまいます。そうなると論理的思考力や思考の柔軟性をチェックすることができないので、一般的にあまり知られていないことや、はっきりとしたデータが公表されていないような情報が問われる傾向にあります。
実務においても、フェルミ推定を活用するケースはあります。新しい市場で新規事業を立ち上げようとした場合、参考になるデータが十分にないケースも少なくありません。そういった場合には、フェルミ推定を用いて概算し、あたりをつけるという作業も必要です。このように、フェルミ推定の考え方は業務上でも役に立つスキルと言えるでしょう。
コンサル会社や外資系企業の面接でよく出されていた
かつて、コンサルティング会社や外資系企業の面接ではフェルミ推定がよく出題されていました。現在も昔ほどではないにせよ、フェルミ推定を面接で使っている会社が多くあります。
コンサルティング会社ではクライアントが抱える問題を的確に発見し、課題に対する解決策を論理的に提示する必要があります。そのような論理的思考力を問うために、面接でフェルミ推定を用いる企業が多くあったことが理由のひとつです。そして、面接でフェルミ推定を用いる企業は、そのような能力を持つ学生を見極め、採用したいと考えています。
面接では短時間で回答することが求められる
面接では時間が限られているため、短時間で回答することが求められます。フェルミ推定が出題された際もだらだらと話すのではなく、要点をまとめ、端的に回答しなければなりません。
そのためには、ある程度よく出題されるような問題に対して知識を得ておくのが望ましいでしょう。例えば、日本の人口、平均寿命、平均年収、学校の数、企業の数、市町村の数などは定番のテーマですので、特にコンサルティングファームや外資系企業にエントリーしたい学生の方は暗記しておくことをおすすめします。
フェルミ推定は重要?
コンサルティングファームや外資系企業で過去、フェルミ推定がよく出題されていたことはご紹介しましたが、現在も時間をかけて対策を考えるほど重要なのでしょうか?結論としては、「考え方として有用なので、現在でも勉強しておくほうが自分のためになる」と言えます。
スキルセットとしては重要な思考法
フェルミ推定はいわゆる仮説思考であり、仮説をもとに推論していく能力は大学生としても社会人になっても重要なスキルです。特に社会人となってからは、仮説をもとに推論していくという考え方をビジネスの場で多く使います。その理由は、仮説を立てることで、課題解決の方法を速やかに立案できることが多々あるからです。
仮説を立てることで、とりとめもないと思っていた大きな課題に対して細やかな検証ができたり、企業、ブランド、サービスなどの現在地を明確にすることができたりするため、結果としてよい結論に導きやすくなりします。
例えば、新規事業を立ち上げるかを検討する際には、どれだけその事業が売上を伸ばせるかをシミュレーションする必要があります。よほど成熟した市場でない限り、十分なデータが整っていることは少なく、国が取っている大雑把な統計データなどを参照する他に手段がない場合もあります。そのようなシーンで、フェルミ推定を使って検討を行えるかが重要です。
就活の面接で使われる頻度は減っている
フェルミ推定は、Googleが採用面接に取り入れたと言われています。しかし、そのGoogleがフェルミ推定を利用した面接を廃止。廃止には他の企業も同意する部分が多く、それ以来、昔に比べてフェルミ推定を面接で使う頻度は減ってきています。
しかし、前述したようにフェルミ推定はビジネスパーソンのスキルセットとしては重要です。また、いまだにコンサルティングファームや外資系企業などでは面接に用いられることもあります。仮に面接での搭乗頻度が減っているとしても、将来への自己投資としてトレーニングしておいても損はないと言えるでしょう。
フェルミ推定の例題・回答方法
フェルミ推定は、事前に知識として人口などの統計データを頭に入れておくことも大切ですが、最も重要なのは考え方に慣れておくこと。慣れておけば、予備知識がないテーマにおいても速やかに対応することができます。
ここでは、フェルミ推定の例題と解答方法について解説していきます。
例題1
「アメリカのシカゴには何人(なんにん)のピアノの調律師がいるか?」
これは、最も有名なフェルミ推定の例題です。解き方を知らない方は、以下を読み進める前に5~10分程度で考え、答えを出してみましょう。
回答方法
解答方法としては、仮定を順に計算して推論し、その際に仮のデータを設定することが重要になります。与えられた「アメリカのシカゴには何人のピアノの調律師がいるか?」というテーマに対し、細分化し、それぞれ仮説を立てていきます。
シカゴの人口を仮定して世帯数を概算する
まずは、シカゴの人口を考えます。シカゴの人口がわからなくても、大体のイメージで計算していけばよいです。ここでは、300万人とします。
次に1世帯あたりの人数と、大体どれくらいの世帯がピアノを持っているかを考えます。1世帯あたりの人数は、平均的には夫婦に子ども2人の4人家族を想定しつつ、単身者もそれなりに多いはずなので3人とします。続いて、どれくらいの世帯がピアノを持っているかですが、例えば1クラス40名の中で4人くらい家にピアノがあると仮定すると、10世帯に1つがピアノを保有しているということになります。
ここまでで、「300万人÷3人÷10世帯=10万」という計算から、シカゴには10万台のピアノがあると推計されます。
シカゴの世帯数から調律師の人数を概算
続いて、調律師の人数について仮定していきましょう。
調律師は大体1人で1日3台ピアノの調律を行い、週休2日で年間250日働くとします。そして、1台のピアノを調律する頻度を年1回とすると、「3台×250日=750」、つまり1人の調律師が担当するピアノの数は年間で750台となります。
シカゴには10万台のピアノがあり、1人で年間750台の調律をするので、「10万台÷750台=133」となり、おおまかに130名の調律師がいると推定することができます。
例題2
「全国のコンビニで販売されている弁当の総数は?」
先ほども例題として挙げたこちらの問題を、別の切り口から実際に解いてみましょう。どのような数字やデータがあれば、販売された弁当の数が割り出せるかを考えます。
回答方法
コンビニを利用する人数を求める
現在の日本の人口は約1.2億人ですが、コンビニ弁当を利用するマス層は、学校や仕事などで長時間の外出をするであろう、10~60代の幅広い年齢が考えられます。日本の65歳以上の人口割合は約28%なので、定年退職した層を省くと8,400万人が学生や働く世代と考えられます。
ただ、そのすべてがコンビニを利用するとは限りません。ここで、1世帯につき1人程度がコンビニ弁当を利用すると仮定します。1世帯あたり2.5人とし、全国の世帯数を3,360万と推定すると、「3,360万人が外で食事を済ませている」と推定できます。
さらに、コンビニ以外で食事を済ませるケースもあると考えられるため、コンビニ利用率は0.5人と推定。この結果、1,680万人がコンビニを利用する人数であると推察ができます。
ただし、コンビニ利用者の中には「弁当以外のものを購入して済ませる人」も少なくないでしょう。それを踏まえて弁当の購入者はコンビニ利用者全体の0.5人と仮定すると、840万人となります。その全員が弁当を1点購入していると考えると、弁当は840万個販売されていると推測できます。
仮定のデータを設定する
このように、フェルミ推定では、仮のデータを設定して考えることが大切です。重視されるのはデータが細かく合っているかではなく、ある程度常識的な範囲内の数値であり、そして、その後の計算が論理的に正しく導かれているかどうかです。
とはいえ、この常識的な範囲内の数値というのは、ある程度の知識がなければ的外れとなってしまいます。そうならないために、前提となる知識をできるだけ身に付けておくことが重要なのです。
仮定を順に計算していき推論する
仮定したデータを使って、回答となる内容を計算します。重要なのは、結論とするために必要なデータはどれかをしっかりと認識し、公式を作成することです。例に挙げたコンビニ弁当の場合、「コンビニ利用者全体×弁当を買わない人の割合=弁当を買う人数」と簡単な四則演算を用いることで結論付けることができます。
ここで初めて、結論にどのデータが必要なのかがわかるため、コンビニ利用者を人口から割り出すなどの推論と仮定が行えるようになります。
フェルミ推定の勉強におすすめの書籍
フェルミ推定を勉強するには、実際に本(書籍)を購入し、その考え方を知りながら慣れていくことをおすすめします。フェルミ推定に関する書籍は多数ありますが、ここではこれからフェルミ推定を本格的に勉強したい方や、就活に備えたい学生におすすめの書籍を3冊、解説していきます。
1.世界の猫はざっくり何匹?――頭がいい計算力が身につく「フェルミ推定」超入門
一連の活動により数学の発展に貢献した人に贈られるZeeman Medalを受賞した、ロブ・イースタウェイ(Rob Eastaway)氏の書籍です。ロブ・イースタウェイ氏は執筆や講演などを通じて、数学の楽しさを伝える活動を行っています。
本書は2021年に発売され、フェルミ推定を理解する上での超入門として、特に概算を中心としています。フェルミ推定の概要や基礎を知り、また簡単な練習問題がいくつかあるので、初心者が最初に手にする書籍として参考になるでしょう。
なお、事例の中には日本人にはなじみがない単位(ポンド、フィートなど)や地名が出てきますので、少々戸惑う場面もあるかもしれません。
2.現役東大生が書いた 地頭を鍛えるフェルミ推定ノート
1,000以上のフェルミ推定問題を解いた東大生たちが、その「とっかかり」と「解法ステップ」を体系化し、書籍として発行しました。2009年に発売され、読むことでフェルミ推定の体系と解放ステップを理解することができます。
これからコンサルティングファームや外資系企業の面接を受け、その対策としてフェルミ推定を行うにあたっては「ちょうどよい難易度」の問題が多数準備されており、試験に向けた対策に有効な書籍です。
ただ、本書の大半は問題集となっています。フェルミ推定自体の知識を本書以外のところで学んだ後、本書を読むことで実践に向けた訓練ができたり、思考法を身に付けられたりするでしょう。
3.「フェルミ推定」から始まる問題解決の技術
NTTデータ、BCG(ボストン・コンサルティング・グループ)を経て「考えるエンジン講座」を提供するKANATAを設立した、高松智史氏が執筆した書籍です。
2022年に発売され、フェルミ推定を解く技術をとにかく磨くA面と、さらにそこからフェルミ推定を活用した問題解決の思考法について解説するB面から成り立っています。
「フェルミ推定」のビジネス面での活用方法として、市場規模推定や売上推定を算出するためだけでなく、成長戦略や新規事業などに幅広く応用できるような戦略思考の考え方をまとめています。
単に就活のために勉強するための書籍ではなく、実際に社会人として働く中でライバルよりも一歩進んだ問題解決方法の手法や考え方を身に付けたいという方に向いています。
まとめ
「フェルミ推定」は、断片的な情報から回答を推論する思考法です。試験でいきなり出題されると混乱し、なかなかうまく話せないかもしれませんが、対策をしておくとスムーズに説明できるようになるでしょう。
また、勉強することで論理的思考能力が養われ、コンサルティングファームや外資系企業における就活の面接対策はもちろん、就職後の社会人生活や、日常生活でも役立つなど、得られるメリットは多くあります。気になる方は本記事で解説した書籍などを活用し、一度勉強してみてはいかがでしょうか?
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